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小松左京 "復活の日" [文庫]

2020年7月5日の日記

小松左京は,中学の時に結構読みました。あらかたショート・ショートと呼ばれる作品は読んだつもりでしたけど,名作 "くだんのはは" は知りませんでした。非常に多作の作家なので,まだ読んでない作品がたくさんありそうです。

でも,たくさん読んだ,と思っていたつもりですが,それはショート・ショートだけで,大作で最後まで読んだのは "日本沈没" だけです。"復活の日" や "さよならジュピター" は読んでいませんでした。"日本沈没" は最初のカッパ・ノベルス版を持っているので,結構貴重かも........なんて思っています。

"復活の日" を読んでいなかったのは,さすがに大作過ぎて中学生が読むには厳しそう,と言うのもあったのですが,草刈正雄が出ていた映画があって,作ったのがやはり角川映画らしく,宣伝があまりにも大々的で,却ってうさんくさい印象を受けたせいだと思います。その映画のCMも覚えているのですけど,どうにも邦画が嫌いだし,あまりに仰々しいそのCMも,どこか空々しい感じがして,映画も見ていませんし,小説も同じ感じかな,なんて思って読んでいませんでした。映画はBSでやるとは思えないし,と言ってDVD借りてきて見てみよう,という気も起こらないんですが.....。

とはいえ,カミュの "ペスト" 同様,昨今のコロナ禍の広がりで読む人が増えているようです。先日,本屋さんへ行ったら,角川文庫が平積みになっていました。

角川文庫版の新刊も2018年8月の発行ですね。しばらく絶版になっていたのだと思います。

iruchanは早川書房の単行本で読みました。単行本は少し早く,1月に出ているようですが,単行本と文庫本が並行して出ている,というのは珍しいですし,発行元が違う,というのは極めて珍しいと思います。権利はどうなっているんでしょうか。

と言うのもありますが,コロナ禍をまるで予見したかのように,新刊本が2年前に出ているのが不思議ですし,内容自体も驚くほど近い状況です。感染拡大に伴って東京の電車がガラガラになったというあたりはびっくりです。

でも,乗務員が次々に死亡し,電車の運転が間引き運転になったとか,東海道線は動いていないとか,状況ははるかに深刻です。TVも徐々に放送が縮小し,最後は停波してしまいます。

結局,最初の感染からわずか3ヶ月で35億人の人類はほぼ全滅してしまいます。

"復活の日" の方はウィルスではなく,宇宙由来の新型の核酸が原因物質です。この核酸を英国の防衛機関が利用し,細菌兵器MM-88に仕立てたところ,外国(どこか不明)のテロ集団が奪取したのはいいが,レーダーを避けるため,木造の旧式飛行機だったため,アルプス山中に墜落し......というのがパンデミックの発端です。

とはいえ,地表に落下した人工衛星にタンパク質が残っている,というのはあり得ないですし,確かにアポロ宇宙船の乗組員が地表帰還後,未知のウィルスを持ち込まないか,隔離されたのはよく知られていますが,彼らは大気圏内に突入しても安全な司令船内部で生還しているので,当然かもしれませんが,人工衛星だと1000℃以上の高温に晒されて地表に届いたのですから,今でも人工衛星の残骸を調査することがあるようですが,隔離したりはしていませんね。

それに,核酸がウィルスに変化して,それが人体に取り込まれてからの作用などについて,長々と説明があるのですが,さすがにさっぱりわかりませんでした......orz。

このあたりの科学的記述は,さすがは小松左京,と唸らせるところはあるのですが,ちょっとくどすぎ。

かと思うと,このウィルスは低温に弱く,結局,南極の各国基地に居住していた1万人だけが生き残るのですが,女性は16人しかいないので,性欲のはけ口として残りの男たちと平等にセックスせよ,なんて議論がまじめになされる,なんてあたりは大作とは思えない,これじゃまるで,ショート・ショート的な "落ち" で少々,幻滅します。また,終戦直後のアナタハン島事件は実際にあったことですけど,無人島に男と女が漂着し,なんて映画は過去いくつもありますから,こういうシチュエーションは感覚的には既視感があります。

舞台としても1970年代前半が舞台なので,SFとしてはもう,とうに時代が追い越してしまっているので,今,読むと笑ってしまうようなシチュエーションも多いです。コンピュータでウィルスの挙動を予測するあたり,コンピュータはパンチカード式です! さすがにiruchanもこの入力装置を使ったコンピュータは見たことがありません。

小松左京のほかの小説でも出てきましたが,TV電話はブラウン管式だし,こういう点,SFのむずかしいところですね.....。

ラスト,無人となった地球で米国のドゥームズデーマシンが動作し,中性子爆弾による核攻撃の応酬でウィルスが滅ぶ,というのは少々,荒唐無稽。どうやらこのウィルスは高速中性子に弱いらしいのですが......。

南極に生き残った人類が南米に移動し,人類復活の第一歩を記す.....というのがエンディングでした。

まあ,このあたり,iruchanも映画すら見ていないのですけど,すでに知った内容でしたので,結末は知っていたのですが,冒頭の感染拡大の状況はコロナと似ていて,唖然とするとともに,非常に手に汗を握る展開なのはさすがと言わざるを得ません。少々,今の目で見てみるとおかしなところが多いのですが,今,読んでみても,とても面白いし,本を買っても損はないと思いました。

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