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杉崎行恭著“絶滅危惧駅舎――訪ねておきたい名駅舎たち” [文庫]

2012年8月10日の日記

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元来,鉄ちゃんなので,よく旅行をしますし,電車の写真を撮ります。そのついでに,最近,必ずするのは駅舎の写真を撮ることです。今度来るのはいつのことかわかりませんし,何年かあとに来てみたらもうその駅舎はない,と言うことが大いに予想されるからです。昨年まで,NHK BSで "にっぽん木造駅舎の旅" と言う好企画がありましたが,古き良き駅舎は郷愁を誘うとともに癒しの効果もあり,よく見ていました。

ところが,最近(と言うか昔から),古き良き木造駅舎はあっという間に建て替えられ,味も素っ気もない橋上駅に建て替えられる例が増えています。古い=かっこ悪い,使いにくい,と言うだけでなく,古い=田舎,新しい=都会という,昔からの日本人の悪い固定観念が駅舎の建て替えに現れていると思います。現に,私の地元の駅なんて,なんと私が生まれてからで3代目です。これって異常じゃないでしょうか。人の人生より建物の寿命の方が短い,というのは異常だと思います。古いものを簡単に捨ててしまうのは,太古からの長い歴史をよく誇る割には日本人の悪い癖だと思います。そもそも,一生の買い物である家ですら,日本では平均23年で建て替えられているそうですから,膨大な資源とエネルギーのむだ遣いで,リサイクル先進国なんて自慢は通用しないと思います。

また,駅というのは町の顔でもあり,玄関でもあることから行政の標的になりやすく,首長の実績にもなることからなおさら建て替えの標的になりやすいと思います。さらに,JRは民間企業なのに駅の建て替えや新設はまったく行政任せで,自分では建て替えをしようとはしません。税金で建て替えが決まるまで何もしない,と言う姿勢を強固に守っています。そもそもどこの民間企業が自分の支店や営業所を造るのに,税金で作るというのでしょうか。

と言うことから駅の建て替えは税金任せということになり,高架化や電化,複線化,バリアフリー化や耐震化などあらゆる名目で補助金や予算がついたりすると真っ先に駅舎が取り壊されます。JRもこれ幸いと言わんばかりに,自腹を切らずに自分たちに都合のよい駅舎を建てます。

本書はこういった行政やJRの姿勢を厳しく批判するとともに,古き良き木造駅舎をはじめとして,昭和以降のコンクリートを用いたアールデコ風やル・コルビジェばりの近代建築の名駅舎を取りあげ,写真入りで解説した本です。

"駅の破壊は町の破壊をもたらす" と言う筆者の考えにはまったく同意見です。駅中心のコンパクトな町造りとは相容れない自動車社会の促進効果をもたらす駅の建て替えは町を駅から遠ざけ,駅前に広がる町を破壊します。自動車社会の落とし子でもある郊外の大型ショッピングセンターは,従来からあった駅前の現在では小さいと思えるスーパーの撤退を招き,商店街の経営者の高齢化により従来から衰退していた駅前商店街にとどめを刺すとともに,駅近くに住んでいた昔ながらの住民の衣と食を奪うことになります。結局,相も変わらず自動車に乗らないとどこにも行けない,何も買えないと言う状況を招き,市街地の荒廃を招きます。最後は鉄道そのものの廃止を招くこともあるでしょう。

大型ショッピングセンターの建設を禁止し,古い木造駅舎をきれいに整備し,耐震化(木造なら簡単なはず)やバリアフリー化が必要なら実施し,駅前のロータリーなどを歩行者優先の広場にすれば人が集まり,街の活性化にもつながると思います。掛川駅や上田電鉄の別所温泉駅,肥薩線の嘉例川の駅などは古い木造駅舎を活かしつつ,きれいに整備して保存した,よい例だと思います。きれいになった木造駅舎は観光資源ともなり得るはずです。

本書はこういう,相も変わらない日本の行政やJRを批判するとともに,消えゆく駅舎の記録としてとてもよい本だと思います。私も座右の書にして,本書に取りあげられた名駅舎を訪ねていきたいと思います。

 


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