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Niall Ferguson著 "Empire: How Britain Made the Modern World" [海外]

2019年4月1日の日記

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日経の書評にも出ていた,Niall Fergusonの本を読みました。中央公論新社から,ニーアル・ファーガソン著 "大英帝国の歴史" として,邦訳も出ています。

ただ,この前の "夢遊病者たち" もそうでしたけど,上下巻で6,264円もしますから,研究者でもない限り,買う人は少ないでしょう。結局,洋書で買いました。

と言って,最近,iruchanはamazon本体じゃなく,マーケットプレイスを見ています。こっちの方が安いですしね。おまけに,今回はマーケットプレイスにもよく出している店ですが,ロンドンのBook Depositoryと言うお店にしましたけど,それもAbe Books経由で買いました。amazonに出店している値段より,たいてい,1ドルくらい安いです。結局,11.69ドルで買えました。訳書を買う1/5ですね。まあ,amazon直販だと市川か,どこか,国内から送られてくるので早いと言うのがメリットですけど,なにか,洋書を買うのに日本から送られてくるのもありがたくないので,ロンドンのBook Depositoryにしました。ここはロンドンからでも送料無料で1週間ほどで届くし,何よりどこよりも安く,またなぜか必ずしおりをつけてくれるのでありがたいです。外国のしおりってのも珍しいですからね。そういや,amazonも昔はしおりをつけてくれたものですけど.....。

さて,本の内容の方は英国史なのですが,我々にとってなじみのない,中世以前の内容はなく,あくまでも近世以降の大英帝国の成立前史から第2次世界大戦後の世界までです。さすがにiruchanは世界史好きだけど,中世以前はわかりにくく,いつも敬遠しちゃいます.....(^^;)。

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最初はアメリカ大陸への進出からはじまります。

もっとも,すでにアメリカ大陸は1494年にローマ法王アレクサンドル6世が決めた,教皇子午線により,スペインの支配圏とされ,すでに南米はスペインが支配していました。トルデシリャス条約ですね。ブラジルだけポルトガルなのはこの子午線の東側でポルトガルの支配権だったためです。一方,太平洋は1529年に締結されたサラゴサ条約で取り決められ,フィリピンまではポルトガル,それ以東はスペイン領とされました。だから,マカオがポルトガル領なのもこのせいだし,ザビエルが日本に来たのもポルトガル国王ジョアン3世の命を受けて,です。でも,ザビエルは生まれ自体はスペイン領だったようですが,日本に来た目的はポルトガル国王の指示によるものです。また,種子島に鉄砲をもたらしたのもポルトガル人,というのもこのせいだと思います。

英国が北米に進出したのは,すでに胡椒やカカオ貿易をスペインやポルトガルに独占され,しかたなく,と言う意味合いだったようです。この地域では胡椒は採れませんが,英国自体はインドから胡椒を輸入できるので。そこで英国がやったのは.....奴隷貿易でした。つまり,インドから胡椒を輸入し,代金として奴隷貿易で儲けたカネを支払った,と言うわけです。北米からはコーヒーや綿花を輸入して儲けます。いわゆる三角貿易というやつですね。100年後,今度は北米の代わりに中国に対してアヘンを輸出して,茶を輸入するわけですが,大英帝国の常套手段となったわけです。

このあたり,非常に汚いと思うのですが,Fergusonの見方は甘く,と言うより大甘で,英国に対してかなり寛容な内容が目立ちます。

ただ,欧州で先頭切って奴隷制を廃止したのは英国が最初ですし,1807年には奴隷貿易を廃止しています。ビジネス的に儲からなくなったから,というのが今までの定説ですが,純粋に倫理的に禁止した,というのも事実のようです。

アメリカの独立で北米を追い出された後,アフリカに進出するわけですが,ここで暗躍するのはセシル・ローズなのは有名ですね。デ・ビアス社を設立して銀行家のロスチャイルドと組んで南アのキンバレーのダイヤモンド鉱山を買収し,次々と周辺の鉱山の買収を進めました。ビジネスだけの問題だったらよかったのですが,デ・ビアスは警察権のみならず,私兵を擁し,鉱山地域を力で支配しました。英国政府もデ・ビアスが進出した土地を英領とし,大英帝国の拡大を図りました。

東インド会社もそうですけど,単なる貿易会社なのに,警察権どころか,徴税権や軍事力まで擁して植民地経営に政府に代わって参画したのは後の満鉄もそうだと思いますが,帝国主義の時代,植民地進出の足がかりとして利用しましたね。

のみならず,軍事的にも大英帝国は産業革命後の機械産業の勃興で高性能な兵器を開発し,特に本書で取り上げられているのはマキシム銃で,1分間に500発発射する機関銃は対抗勢力を全滅させ,領土拡大や反乱の鎮圧に猛威を振るいました。先ほどのセシル・ローズも1893年,シャガニ川の戦いでローズ側の700名の部隊が4丁のマキシム銃で3000人の部隊を全滅させました。こうして作られたのがローデシアです。彼の名にちなんだのは言うまでもありません。

また,言うまでもなく大英帝国が世界に覇を唱えた原動力は海軍。世界各地に海軍基地を設け,7つの海を支配することとなります。p.286に1898年当時の英海軍基地の地図が出ていますが,世界中に33カ所もの海軍基地があり,驚きます。実際に戦艦を配置せず,単に給炭施設のみというところも多かったようなのですが,軍艦が寄港する,と言うだけで威圧効果は絶大だったでしょう。

人員的には英海軍は10万人を擁していましたが,その割に,予算も4000万ポンドほどと当時のGDPの2.5%しかなく,冷戦時代より少ないのには驚かされます。ポンドが世界の基軸通貨となり,貿易や工業生産のみならず,金融面でも大いに儲けていたと言えるでしょう。

しかしながら,すでにヴィクトリア朝の後期にはすでに衰退の兆しがみえ,新興のドイツに覇権を脅かされることとなります。

先ほどの "夢遊病者たち" にも出てくる,1907年に英外務省のクローが執筆した,"独仏関係に関する英国の現状" と題するメモには,1913年に,ドイツは英国のGDPを6%上回り,同様に1880年に世界の生産シェアは英23%,独8%だったものが,それぞれ14%と15%になると指摘しています。また,海軍の総トン数も7対1だったものが2対1になると指摘しています。すでに英国の覇権は危うく,20世紀にはドイツとの戦争が避けられない状況となってきていることが明らかになります。トゥキディデスの罠ですね。

ヴィクトリア女王の崩御する1900年にはすでに英独の立場は逆転していました。

それから二度の大戦を経て,英国は軍事的に勝利はしましたが,世界の覇権はアメリカに移り,経済的にも敗戦国であるドイツの後塵を拝する状況となったわけです。

この本はその後,エジプトやインドの独立も描いていますが,ヤマ場はやはり第1次世界大戦直前の状況です。

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今は中国がアメリカに覇権を挑み,世界制覇をもくろんでいるのは誰の目にも明らかだと思います。やはりカギとなるのは海軍力。この本を読んで感じるのはそのことです。昨今の中国の南シナ海への進出や,一帯一路構想などと言う戦略も,またそれに沿ったスリランカへの軍港建設やイエメンでの軍事基地建設など,この本に書いてあるような,かつての大英帝国の施策とそっくりです。

赤い大きな国の指導者は一生懸命,この本を読んだのではないかと思います。実際,2003年に出版されているのでもうずいぶんと前のことです。その意味で,邦訳が出たのが去年,というのは少し,日本人というのはのんびりしすぎているのではないかと......。

empire ferguson, china.jpg 当当網でも英語版のみです。

ただ,中国最大のオンライン書店である当当網を見ても,中国語版はないようです。原書は驚くほど安い値段で売られていますね......。

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この本を読んで思ったのは,いろんな意味でやはり歴史を学ぶのは重要だということ。

ただ,この本は,プロの歴史家が書いた本ではなく,誤謬も多いと思います。特に,アジアにおける大英帝国の覇権を脅かす存在になった日本が20世紀に台頭してきて,日本に対する記述も多いのですが,中でも日中戦争時の南京大虐殺の記述が出てきますが,被害者30万人としているのはちょっと納得がいきません。確かに,iruchanは南京大虐殺は史実としてあったのだ,とは思っていますが,被害者の数はこれでは中国の主張を何にも検証せず,鵜呑みにしています。きちんと本として世に問う以上,歴史家の最新の研究成果や一次資料を調査し,正確な記述をしてほしいと思います。特に,ペンギンクラシックスのシリーズで出るような本ならなおさら,という気がしました。


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