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レン・デイトン "SS-GB" [海外]

2019年4月21日の日記

前回,ロバート・ハリスの "ファーザー・ランド" を読みました。ナチス・ドイツがイギリスに勝利し,ヨーロッパをドイツが支配している,という社会を描いた作品です。こちらもナチスが戦争に勝っていたら.....という設定で書かれた小説として有名ですね。

ただ,残念ながら,両作品を読み比べてみて,やはり断然,"ファーザー・ランド" の方がおもしろい,と言わざるを得ません。

"SS-GB" の方はとにかく人物や風景の描写が塩野七生ばりにくどい.....(^^;),というのがやはり原因。読んでいてスピード感がなく,非常に疲れます。そもそも,“ファーザー・ランド” の方はいきなり1頁目から死体が発見される,という状況なのに,こちらの方は最初の死体が発見されるのず~~っと後。最初からしてスピードが違います.....。

それに,そもそも舞台がナチス占領下のイギリスというのもどうかと.....。

主人公をはじめとして,周囲の人間はイギリス人ばかりで,いずれも当然ですけどナチスに反感を持っていて,いわば,主人公の周りは味方ばかり,と言う状況はのんびりしすぎています。"ファーザー・ランド" はベルリンが舞台だし,周囲はゲシュタポや親衛隊ばかり,と言う状況とエラい違いです。

設定もどうにもおかしく,そもそもイギリスがなぜドイツに降伏したか.....というのははっきりわかりません。どうもネットを見ると,英本土上陸作戦が成功したため,のようなのですが......。

1頁目にイギリスの降伏文書が出ていて,それはそれで結構緊迫感があります。日付は1941年2月18日となっています。まだ日本は参戦前ですね。だから,"ファーザー・ランド" には出てくる日本は,本書では出てきません。

ただ,やはりこの設定はちょっと非現実的。そもそも,前年の7月,8月のいわゆるバトル・オブ・ブリテンで,ドイツ空軍は手痛い敗北を喫し,北海の制空権がない状態でドイツ軍が上陸作戦を敢行,成功させるとは思えませんし,チャーチルは逮捕されて銃殺されていますが,国王のジョージ6世はなぜかロンドン塔で幽閉されている状況です。中世じゃあるまいし,さすがに20世紀に国王をここで監禁することはないでしょう。ずっと前から観光名所になっているわけだし,監禁場所にする,というのもなんか,笑っちゃうような感じです。米海兵隊による彼の救出計画と,ナチスの核開発計画の文書の奪取が後半のヤマですけど,007じゃあるまいし,これもあり得そうにない,という感じです。そもそもナチスの原爆開発は実際には南ドイツのアルプスの麓でやっていた訳ですし,普通はこういう風に山奥でやるイメージだと思います。ましてや敵地で開発するとはとても思えないんですけどね....。

そういう意味で,どうにも読む気をなくして飛ばしながら読みました。イギリスではベストセラーになったし,2017年にはBBCでTVドラマ化されたくらいなので人気のある小説なんでしょうけど......。

ということで,イギリス人じゃなければ,実感はわかないし,大しておもしろくはない,と思いました。文庫は早川書房から出ていましたが,とうに絶版。iruchanも図書館で借りて読みました。

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