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佐々木譲著 "エトロフ発緊急電" を読む [文庫]

2020年11月22日の日記

エトロフ発緊急電.jpg

先月,佐々木譲の "抵抗都市" を読みました。日露戦争に日本が負けた世界....という想定はとても意外で,歴史改編小説にやみつきになっちゃいました。

同じ筆者の "エトロフ発緊急電" を読んでみたいと思います。

単行本の発刊は1989年だし,もう相当,古い小説ですが,とても面白いと昔から評判ですよね。山本周五郎賞を受賞していますし,NHKで "エトロフ遥かなり" というタイトルでドラマ化もされています。

どちらも評判になったし,iruchanもすでに大学生だったから読んでもよかったのですけど......どうにもノンフィクションじゃない,小説という分野は昔からあまり好きじゃなく,TVドラマの方も主人公が永澤俊矢で,実を言うと,ちょっとこういう怖面の俳優さんというのは一緒に出ている憲兵役の阿部寛とか,この番組に出てませんけど,ほかにも山崎努とか,緒形拳とか,iruchanはどうにも苦手なので,何度も再放送されているのに見た記憶がありません。

        ☆          ☆          ☆

舞台は1941年の択捉島。

そう,ハワイ真珠湾攻撃に向かう,日本の機動艦隊がこの島の単冠湾に集結したところです。そこに日系米国人のスパイが潜伏していて,米海軍に急報する......というストーリーです。

スパイ小説らしく,美人もいて,NHKでは択捉島の駅逓の女主人ゆきを当時,人気絶頂だった沢口靖子が演じています。彼女はスパイと恋に落ちます。

歴史好き,特に戦争に興味がある人にはまさに格好の小説だと思います。また,iruchanもあまりフィクションは読まないと言ってもスパイ小説は好きで,フォーサイスはほぼ読みました。

でも,今までなんとなくこの小説は敬遠していて,今ごろ読んでみて,ちょっと後悔してます。でも,とても面白い,手に汗握る小説でした。

もう,いろんな人がこの小説についてはたくさんブログにも書いているので詳しくは書きませんけど,読後の感想として,ふたつ,挙げておきたいと思います。

読んでいて,ケン・フォレットの "針の眼" (”Eye of the Needle”, 1978)に似ているな~,と思ったことを書いておきたいと思います。といって,実はiruchanは小説は読んでいなくて,1981年製作の英国の映画で見ただけなんですけど.....。

コード名Needleのドイツのスパイが英国領の孤島に潜入し,島に住む夫婦に取り入り,第1次大戦で亭主が不能になったのに不満を持っていたそこの美しい妻は彼を愛するようになりますが,そこで重要な機密を本国に送信しようとした直前に妻に妨害される.....というストーリーで,本作でも,最後,ゆきが送信機を破壊してスパイが憲兵に射殺される,というのは似ているな~って思いました。

もうひとつ,彼が使った送信機は彼を支援する米国人宣教師から提供されていますが,それを作ったのは宣教師の知り合いの盛田という帝大生で,海軍に就職したばかり.....というのは,もちろん関係ないですけど,ソニーの盛田さんがモデルですよね。

機動部隊発進という重大情報を米海軍幹部はあまりにも荒唐無稽だとして無視してしまい,甚大な被害を被る.....というところで史実に戻りますけど,実際にルーズベルトを初めとして米政府は真珠湾攻撃は察知していたのではないか....というのは昔から指摘されています。少なくとも,iruchanも,米国が日本のすべての暗号を解読するのはまだ先のことだったようなのですが,日本の外交公電は解読されていたし,ハワイではなくとも日本がどこか,米国領土を先制攻撃するだろう,というのは予想できた,と思っています。

それに,そもそもルーズベルトはもし,英国が屈服すれば英仏に貸し付けた多額の債権がパーになるので,早期に欧州の大戦に参加したかった,というのは歴史学者の指摘するところです。とはいえ,米国は民主主義の国なので,議会が認めない限り,宣戦布告はできないので,むしろ,日本に勝手にやらせておいて参戦を容易にしたかった.....と考える方が自然です。

おまけに宣戦なしの戦闘開始は日清,日露もそうでしたけど,日本の常套手段だし,今回もそうするのであれば米世論も沸騰すると予想していて,今回,一応,日本は宣戦布告をしたにもかかわらず,ご存じのとおり,通告は攻撃開始のあとになり,まさしく思うつぼになったのではないでしょうか。実際,チャーチルは真珠湾攻撃の報告を聞いて,欧州に米国が参戦するので大喜びした,という話ですしね。また,日本の大失態を笑っていたのではないでしょうか。

もっとも,最近の研究でも,ルーズベルトはさすがに先制攻撃の対象がハワイとは思っていなかった,という結論が多いのですが,実は最初から攻撃対象はハワイ,と知っていたのではないか,とiruchanは考えています。

そもそも,アリゾナを初めとして,真珠湾にいたのは老朽化した時代遅れの戦艦群で,虎の子の空母はいなかった,というのは意図的で,予め逃がしてあった,のでしょうし,仮に最大,数千人に及ぶ死者が出ても,米国が欧州の大戦に参戦する大義名分を獲得できるのならやむを得ない犠牲......とルーズベルトは考えていたのではないでしょうか....。

また,空母群がいないことを事前に察知できなかった日本の諜報戦の負けと言うことも言えると思います。

        ☆          ☆          ☆

フィクションとは言え,真珠湾攻撃の発案者の山本五十六の動きや心理が細かく描写されていますし,機密保持のための隠蔽工作など,当時こういう雰囲気だったのだろうな~,という感じはします。なにより,極秘裏に作戦を立案し,実行していく状況は真に迫っています。一方,日系人として米国で差別され,挙げ句の果て殺し屋になっていたならず者をスパイとして養成し,日本に送り込む,と言う筋書きは瞠目すべきものですし,最後,正体が発覚し,追っ手に追われながらも択捉島に潜入し,ついに11月26日払暁,日本の機動艦隊の進発を本国に打電する,というクライマックスはまさに手に汗握る状況でした。12日後,真珠湾を350機の艦載機が襲うことになります......。

さすがは佐々木譲だな....と大いに感心した小説でした。


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