蛇。長すぎてだめ。 ルナール"博物誌"

2013年6月20日の日記

6月2日の日経に載った作家の北村薫氏の "ながすぎる。長すぎる。" と題したエッセイはとても面白いものでした。 ジュール・ルナールの "博物誌" について，蘊蓄を語っておられました。

ルナールというと， "にんじん" が有名で，私も小学生の時に読みましたが，"博物誌" は読んでませんでした。それで，あらためて読むことにしました。

ルナールが身近にいた動物たちを描写したエッセイで，ポナールの美しい挿絵とともに1896年に出版された本です。好評のため，増補を重ね，45章だったものが最終的には85章になっています。こんな愛すべき本があったのか，とあらためて思いました。

美しい田園とそこに暮らす動物たちの描写は日本人の心の琴線にも触れたのか，古くから訳本が出版されており，現行の新潮文庫に入っている岸田國士訳のものはもとは白水社から出ていたもので，1950年頃の出版のようです。

そういえば，岸田國士の娘さんが女優の岸田今日子さんだったって，今ごろになって知りました。阿川佐和子さんとか，檀ふみさんとか，親父さんが作家，と言う女優さんは多いですが，岸田今日子さんもそうだったのですね。私にとって岸田今日子さんはムーミンですね.....（なんじゃそれ?）。

フジTV系で放映されたアニメ "ムーミン" の声をやっていたのは岸田今日子さんでした。「この声をやっているのは有名な女優さんなのよ。」と親に教えてもらったのを覚えています。そういえば，ムーミン谷の様子も自然と一緒に暮らしているところはこの "博物誌" の世界とよく似ています。

その他，辻昶（とおる）訳のものは北村薫氏の記事にもあるように，1998年に岩波文庫に入っていますが，これももとは旺文社文庫に入っていたもののようで，初出は古そうです。

と言うことで今すぐ読むなら現行の新潮文庫がよいと思いますが， 例によって天の邪鬼な私はもっと古いものを探すことにしました。何より新潮文庫版は1980年代のうす黄色の表紙に文字だけ，というあまりに愛想のない表紙は変更され，最近のものは花の写真が使われていて，おしゃれにはなっていますが，いまだに何か味気ないものです。

といって岩波文庫は比較的新しいのに現在，品切れ。また，こちらも例の岩波文庫に特徴のある一様な表紙で，あまりよいものではありませんね。

同じ訳者の旺文社文庫が手に入れば，と言う気がしますが，これはちょっと探さないと手に入りそうにありません。旺文社文庫の表紙はかつてのフランスで出版されていた本の表紙をまねたもののようで，なかなかよさそうです。旺文社文庫は解説も充実していて，今も人気がありますが，残念ながら紙質が悪く，裏が透けて読みにくいのが難点，と思っています。

と言うことで結局，買ったのは講談社文庫版。訳者は慶応大名誉教授の大久保洋氏です。出版は1981年です。ただ，著作権はC Hiromi Okubo 1981となっているので，すでにこのとき，訳者は故人になっておられて著作権者は奥さんかと思いました。と思ったら亡くなったのは2002年のことのようです。大久保洋はペンネームで本名は大久保洋海というようです。これで謎が解けました。

表紙はなかなかおしゃれなもの。1904年刊行のフラマリオン社のものを模していると思います。ポナールの絵がとてもかわいいです。

早速，中を読んでみます。

蛇。ながすぎる。　　　　岸田國士訳

へび。長すぎる。　　　　辻昶訳

というのは北村薫氏のエッセイでわかります。大久保洋氏のは，

蛇。長すぎてだめ。

になっていました。あはは....。 

今度，旺文社文庫版や白水社版のを入手したいと思います。ポナールの絵もとてもかわいいです。岩波のはロートレックの絵なので，こちらも持っていてもよさそうです。

 

コメント 2

博物誌。私も若いときに読みました。
蛇；永すぎる。　蝶：二つ折りの恋文　など、お洒落な文だった。
また、読みたいな。これから書棚を漁りましょう。
by みどりのとむ (2015-05-10 23:36) 

みどりのとむさん，どうもコメントをありがとうございます。うっかりブログのコメントの通知の設定を忘れ，気づくのが遅くなってすみません。 おっしゃるとおりとてもおしゃれな文章で魅了されますね。何度でも読み返したい本だと思いました。すでに絶版になっている他の文庫も集めたいと思います。
by iruchan (2015-09-16 05:51)