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西条卓夫著 "名曲この1枚" [文庫]

2022年9月4日の日記

名曲この1枚.jpg

昔,中学生の頃,"ラジオ技術" の新譜紹介で西条盤鬼こと西条卓夫なる人が辛口のレコード評を書いていて,よく読んでいました。"無線と実験" の方にも同様の記事がありましたけど,こちらはごく普通のレコード評で,今もそうですけど,ごくありきたりの記事だと思いますが,ラ技の方はスゴくて,「いただけない」,「パッとしない」とバッサ,バッサと新譜を切りまくり,毎回,すげ~~って思っていました。

まだ当時はiruchanはクラシックなんて,ほとんど聴かないし,聴くのはABBA(なつかし~)などの洋曲か,松任谷由実なんかのシンガーソングライターの曲ばかりで,クラシックはせいぜい,「新世界」あたりを聴いていただけですね.....。

大人になる頃にも連載は続いていて,いつもと同じ調子でバッサバッサと新譜を斬り捨てていました。

いまじゃ,雑誌広告主の意向を編集部がとても気にするので,こんな記事は書けないでしょう。まあ,それだけ,雑誌の地位が低下した,とも言えるでしょう。

iruchanはその頃にはいっぱしのクラシックマニアになっていて,氏の辛口の批評を結構喜んで読んでいました。

でも,じゃあ,氏がダメ,と言った曲の氏なりのいいレコードは何なのか,というと古いものばかりで,かなりのものがモノラル録音でした。

その頃になるとCDがでていて,iruchanもその音のよさにはビックリしていたので,レコードでしか聴けない,それもモノラル,となるともう古すぎて敬遠していて,そういう音の悪さを別にしても演奏のよさを取る,ということは理解しがたく,氏の記事を読んで面白い,とは思っても,氏の言う名盤を聴こう,とは思いませんでした。

実際,iruchanの大好きなサン・サーンスの交響曲第3番 "オルガン" なんて,氏のお勧めはクリュイタンスのモノらしく,こちらも最初はクリュイタンスのものと解釈してステレオ録音盤と思っていました。

よく考えてみると,クリュイタンスのモノラル録音盤のことらしく,呆れた,というのを覚えています。

クリュイタンスのオルガンの1956年9月録音のモノラル録音のCDは入手が難しく,iruchanも10年ほど前にようやくEMIが出したので買った,と言う次第です。

ラヴェルの "ボレロ" も氏のお勧めはアンセルメのモノ盤だったように思います。アンセルメのボレロはスイス・ロマンド管のDECCAのステレオ録音盤が有名で,パリ管とのモノ盤は探さないと入手できません。これもだいぶ前でしたけど,CDになったときに買いました。

とはいえ,モノラルだし,聴いてみても大したことない.....と言うのが印象的です。特に,こういう大音響の曲だとCDの方が断然よいはずだし,何よりステレオじゃないと聞きにくいし,この曲の真価はわからない,と今でも思います。

と言うことをよく覚えているのですが,この本が出ていたのを知ったのはずっと後のことで,以来,ずっと探していました。

でもこの本,1964年に文藝春秋から出たあと,一度も再刊されたことがなく,稀覯本とされているのですね。

実際,ずっとヤフオクなどでウォッチしていましたが,今まで一度も出品されたことはありません。日本の古本屋などを見てもどこも売っていませんし,なかなか入手は難しそう,と言うことであきらめていました。

ところが.....。

最近amazonを見ていたら,こちらもおすすめと言うところにでているではないですか[晴れ]

ビックリしちゃいました。

amazonは結構いらないことをしてくれて,家族が見ると恥ずかしくなるようなものが出てくるとマズいので,まともなものしか探していませんけど,音楽やクラシックのCDを見ているので,表示したのでしょう。

早速入手してみると,アルファーベータブックス,と言う会社が復刊したようです。驚きました。表紙も文藝春秋版とそっくりのようです。

ただ,内容は少しがっかり。

全然,ラジオ技術のレコード評のような感じではなく,新譜を淡々と紹介しているだけで,まったくあのようなバッサバッサと斬り捨てる調子ではないんですね.....。

当時はLPレコードが出てしばらくの頃で,氏も書いていますけど,あらえびすこと野村胡堂の "名曲決定盤" のLP版という感じです。

おそらく,ラ技の頃になると,戦前の巨匠たちが世を去り,新進気鋭の演奏家達の新録音が増えてきて,彼らの勝手気ままな解釈や高度な演奏技法,ステレオ録音やそれに,CDはまだ先としても,録音技術の進化で演奏の些細なミスも許容しない超絶な演奏と高度な録音が音楽自体を楽しむことよりも優先度が高くなって,古き良き欧州の典雅な雰囲気が消えてしまったことに我慢がならなくなった,と言うことだったのでしょう。

そんな状況で,iruchanはちょっと失望しちゃいました。

ところがこの本は文春版にはない,芸術新潮などの氏の音楽随筆が併載されていて,こちらはとても面白かったです。ティボーとの親交やクライスラーの生演奏に接した人はそういないはずだし,その辺の話はとても貴重です。

蓄音機の話も貴重で,クレデンザに飽きてHMVの203型を購入したり....銀行家の御曹司と言うことで金に困らなかったのでしょうけど,その点,嫌みに聞こえますが,まあ,そんな経験も日本人ではほとんど経験していないでしょうから,貴重だと思います。



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