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Jay Spenser著 "The Airplane--How Ideas Gave Us Wings" [海外]

2012年10月20日の日記

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先月末にワシントンへ行く用事がありました。行きの飛行機で持っていった本を読んでしまい,帰りの飛行機で読むものがなく,困っていました。行きの飛行機で大体見たい映画は見てしまったし,どうにもハリウッド製の,アクションだけ,と言う映画は嫌いで見るものもないんですよね~~。それだけに,余計に読むものがないので,困っていました。読むものがないと非常につらいのは本好きの人だとわかると思います。

しかたないので,あまりよい店が並んでいるとはとても思えないガラガラのダラス空港で本をさがします。残念ながら本屋は1軒だけで, ノンフィクションや歴史のコーナーを見てもあまりよさそうな本は並んでいません。それで,何かいい店はないかと探していたらスミソニアン博物館で売られているお土産を売っている店があり,そこにこの本が並んでいました。中を見るととても面白そうです。

筆者は長年スミソニアン航空宇宙博物館の学芸員をしていた人のようで,飛行機の歴史をまとめています。一応,技術者の端くれなので,飛行機は興味があります。本当は鉄ちゃんなので鉄道が好きですが,正直なところ鉄道関係は面白そうな本は大体,読んだ気がします。自動車はどうにも鉄道の敵,と言うイメージがあり,あまり自動車関係の本は読みません。でも,飛行機の本はとても好きで,飛行機マニアなんてほどじゃないけど,よく飛行機の本は読みます。

買ってみて正解! 非常に面白い本でした。成田までの14時間のフライトも楽しく過ごせました。

飛行機の歴史の本はたくさん出ていますが,この本はその中でもピカ一でしょう。こんなに面白い本は久しぶりでした。飛行機の通史として非常に読み応えのある本だと思います。ライト兄弟のフライヤーから最新の787までカバーしています。それにこの本の何よりよいことは,まずは通常のとおり,ジョージ・ケーリーによる飛行機のスケッチから始まり,ウィリアム・ヘンソンの船みたいな飛行機の紹介からスタートして,その後,リリエンタールやラングレー,そしてライト兄弟へと至る流れは普通の本と同じですが,胴体や翼,エンジン,尾翼,脚,コックピットなど部分ごとに歴史を解説していることで,各パーツごとの歴史がよくわかりました。飛行機は本当に技術の集大成なんですね。最後は航法支援装置になっていて,GPSの歴史まで書いているのは見事です。こんな本は初めてでしょう。

そもそも,飛行機マニアだって最初のモノコックボディの飛行機は何? とか,最初の全金属製ボディの飛行機は何? と聞かれたって,答えられないと思います。私もダメでした。そもそも,飛行機は全部モノコックボディだと思っていましたが,現在のジュラルミン製飛行機は厳密に言えばモノコックボディじゃなく,縦通材やフレームで強度を持たせているので,厳密な意味で表皮だけで強度を持たせているモノコックボディじゃないなんてことは知りませんでした。最初のモノコックボディの飛行機は合板製の仏Depperdussin社のracerという飛行機で,1913年の登場です。まだライト兄弟から10年しか経っていないのに,racerはモノコックボディの丸い胴体を持った単葉機で,すでに最高速度は200km/hに達しています。実を言うと,合板じゃないと丸く作れないので金属の時代になって逆にモノコックボディが作れなくなった,といえますね。

最初の金属製ボディはユンカースのJ4(1917)です。モノコックじゃないので,胴体は四角い複葉機です。

でもどちらにしろ,1903年のライト兄弟の歴史的偉業ののち,欧州はすぐに彼らに追いつき,追い越していった,というのは哀しい現実です。そもそも1903年の偉業はフランスではよく知られていなくて,1906年のサントス・デュモンによる欧州初飛行が世界初と信じられていました。しかも,完成度においてはサントス・デュモンの飛行機14bis はライト兄弟のにずいぶんと劣り,本書でも欧州初飛行はホップしただけ,と評価しています。ライト兄弟の偉業が信じられるようになるのは,1908年8月にウィルバーがパリで初飛行してからのことです。このとき,自由自在に飛び回り,8の字飛行までしたのは有名ですね。

その後,欧州勢,特にフランスが猛烈に巻き返し,先のracer飛行機なんて今の飛行機とほとんど変わらない姿にまで変化しています。特に,仮想敵国であるドイツに対抗するため,飛行機の技術が異常に発達したのは言うまでもありません。ただ,なぜかアングロサクソンの米英では蒸気機関車や自動車など,陸上を走る機械が発達したのに,飛行機の技術開発はフランスの後塵を拝しているのが不思議ですね。

また,この本ではジミー・ドゥーリトルのことがよくわかりました。真珠湾攻撃のわずか4ヶ月後,1942年4月18日に空母ホーネットを飛び立ったB-25艦載機16機による日本初空襲の指揮官です。白昼堂々,東京,川崎,名古屋,神戸を空襲し,中国に飛んでいって乗員はパラシュートで脱出しました。

この本を読むまではドゥーリトル中佐のことは単なるアメリカの軍人だ,としか思っていませんでしたが,この人物はヒコーキ野郎の出身で,自分でグライダーを作ったり,1924年には24時間以内にアメリカ大陸を横断して優勝したりしていた人物です。陸軍に入ってからはニューヨーク近郊のミッチェルフィールドの飛行場でジャイロコンパスや高度計,上昇速度計,それに滑走路への無線式誘導装置の開発をしました。1929年には初の計器誘導のみによる目隠し着陸に成功しています。

東京初空襲は,アメリカとしても真珠湾攻撃のあと,劣勢が続いているアメリカの士気を高めるため,敵国日本にひと泡吹かせる作戦だったのですが,成功させないと意味がないため,エース級の人物を投入した,と言うわけだったのですね。驚くほど用意周到で緻密な作戦だったことに驚かされます。反対に日本は,と言うとレーダーすらなく,ホーネットを発見したのは哨戒機じゃなくて哨戒艇でしたし,迎撃する飛行機もほとんどなく,あったとしても味方機と誤認したり,地上部隊による高射砲の反撃もほとんど行われなかったばかりか,低空飛行で迫ってくるB-25に対して撃ったので,地上の民間人に被害が出る,と言う有り様でした。これでは勝てるわけがありませんね。

この本はこういった非常に詳しい飛行機の歴史をまとめて面白い本でした。アポロ8号の搭乗員であったウィリアム・アンダースが本の冒頭で,"すべての飛行機マニアが読むべき本"と評しているとおりのとても素晴らしい本でした。


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