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渚にて [海外]

2009年9月の読書

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BSで1959年製作の"渚にて"をやっていました。昔から見たいと思っていました。中学の頃,SFブームになって,小松左京や豊田有恒が好きでよく読んでいました。星新一のショート・ショートをNHKがアニメ化して放送していますが,これも面白いですね。でも,本の方はあまり読みませんでした。

映画の"渚にて" はグレゴリー・ペックやエヴァ・ガードナー,フレッド・アステア,アンソニー・パーキンスと名優揃いで,すごいキャストだと思います。特にグレゴリー・ペックのファンなので見たかったのですが,なかなか機会がありませんでした。グレゴリー・ペックと言えば,"ローマの休日"というくらい,この映画が有名で,彼にしてみれば,オードリー・ヘップバーンの引き立て役でしかない,この映画がまず第一にあげられるのには苦笑したことでしょう。ただ,それにしてもエイハブ船長役の"白鯨" とか,"マッカーサー" とか,軍人か船長の役にはぴったりだと思います。でも,アンソニー・パーキンスはどう見ても"サイコ" みたいだし,エヴァ・ガードナーもちょっとおばさん過ぎ,という感じです。

さて,映画はよくできていて,無人のサンフランシスコやサンディエゴの映像はショッキングですし,例のモールス信号の正体をつきとめるところなどは圧巻ですね。サンフランシスコは原作では核に直接やられて,金門橋も落下しているのですが,さすがに映画では再現できないので(今だとCGで簡単でしょうけどね),死の灰にやられて無人の廃墟,と言うことになっていました。

死の灰がまもなく降ってきて,いよいよオーストラリアも最後,と言う状況になると人々がそれぞれに政府が無償で配布した毒薬を飲んで自殺していく,というラストは我々,核の時代に生きる人間として,必見の映画だと思います。

まあ,あんなに破滅が近いというのに,暴動や略奪がおきず,人々があんなに冷静で,従容として死を受け入れていくというのは信じがたいですが,作家の希求する平和を訴えるための手段でしょう。そもそも,主人公の艦長の名前がドワイト・タワーズというのも当時の米大統領ドワイト・アイゼンハワーを想起させるあたり,作家の意志が感じられます。

ただ,映画の方ではやはりよくわからないところもあるので,一応,原作を読んでみました。

創元SF文庫から新訳が出ています。ただ,光文社の古典新訳文庫などと違い,あまり編集がよくないと思います。判型も小さめの活字がずらりと並び,特に会話での改行がないので,1ページびっしりと活字が並び,昔の文庫本みたいで読みにくいです。もっとも,8ポなどの大きめの活字にし,会話できちんと改行を入れると,上下2分冊になって売れなくなる,との判断でしょう。確かに,600ページを超す本なので,ちょっと読み通すには苦労します。

また,訳も 「かぶりを振った」 なんて,出たぁ~~~!ですね。訳本特有の言葉ですね。全くの死語で,普段日常会話でも全く使わない言葉を使っていて,それでいながら新訳だなんて驚きです。単に,「首を横に振った」と書けばいいだけの話で,確かに,この本の中にもこのように訳したところがあるので,きちんと編集者がこう書け,と指示しないといけないのでしょうね。

まあ,それなりに読みやすくはなっていますので,おすすめです。

中東紛争にアルバニアが介入し,ナポリを攻撃,一方で,不凍港の上海を狙ってソ連と中国の間で戦争が始まり,その後,エジプトのテロリストがソ連の爆撃機でロンドン,ワシントンに核爆弾を投下し,誤認したアメリカがソ連を報復攻撃する,というところから第3次世界大戦が始まる,と言うストーリーは,欧州最貧国のアルバニアが出てくる,というのは当時としても荒唐無稽な感じですが,地域紛争にテロが絡んで第3次世界大戦が始まるのは現在でもあり得るだけにゾッとするストーリーです。

ロシアの南進政策に近いのを感じますが,19世紀のロシアは旅順,大連を狙っていたので,上海というのはこれも荒唐無稽です。やはり作者が英国人で,晩年は豪州で過ごしたようですが,アジアの人間じゃないので,ちょっと地域的な感覚がボケている感じがします。もっとも,地球温暖化で北極海も凍らなくなるようなので,ロシアが中国の港を狙うことはないでしょう。

4,700発もの核爆弾が炸裂し,北半球は壊滅。潜水艦だった米海軍のスコーピオン号が豪州に逃れてくる,というのが映画のスタートになっています。その後,シアトル(映画ではサンディエゴになっています)から不思議なモールス信号が短波で届く.....。生存者がいるのか?

そのモールス信号は風でコーラの瓶が電鍵にあたって出ているだけだった,と言うオチは"猿の惑星" のラストと並んで,SF映画の最高のシーンと言われています。

死の灰に覆われた北半球から,徐々に死の灰が南半球に拡散し,それぞれが死を迎える,というラストは感動的で,もし我々がそういう状況になったら....,という想像は本当に恐怖を覚えます。

21世紀を生きる我々一人一人が読んでおくべき本だと思いました。帯に小松左京がそう書いていますね。


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