SSブログ

Barbara Tuchman著 "The Zimmermann Telegram" [海外]

2015年4月4日の日記

zimmermann telegram.jpg 

前回,バーバラ・タックマンの "The guns of August" を読みました。ピューリッツァー賞を受賞した傑作として知られていますね。日本では "八月の砲声" として邦訳がでています。

"The guns of August" は第1次世界大戦の勃発までの経緯と,その後の戦線の膠着に至るまでの経緯を著した本でした。正直言って,各国とも19世紀のままの思考で領土の拡張に基づく自国の利益確保を目指した帝国主義のぶつかり合いが原因で,よく言われるサラエボでオーストリア皇太子夫妻が暗殺されたのは単に引き金に過ぎない,というのは本書で大変よくわかりました。

その続編として,この "Zimmermann Telegram" を読みました。

もっとも,タックマンはこの本の方を先に執筆し,集まった資料を基に "The guns of August" を著したようです。

1914年8月の開戦直後の9月,フランスのマルヌ近郊でドイツ第1軍のクルック将軍はフランスの老練なガリエーニ将軍に一敗を喫し,パリ陥落を目前にして戦線の後退を余儀なくされました。以後,両軍とも塹壕を掘り,そこから突撃をくり返しては撃退されることをくり返すようになります。

戦争開始3年後の1917年1月,ドイツ外相だったツィマーマンは駐米大使のベルンストーフに宛てて1通の電報を発します。 

一方,敵側のイギリスは開戦当初から対諜報機関を組織し,ドイツ側の暗号電文を解読していました。もちろん,この電文も解読し,通常通り処理しようとしたスタッフはZimmermann, Mexico, Japanと言う単語が出てきて驚きます....。

電報の内容は,きたる2月1日を以て無制限潜水艦戦を開始し,無警告で大西洋の商船を撃沈する。その結果として数ヶ月以内に英国は屈服するであろうと合衆国大統領に伝達せよということと,その間,アメリカ政府に対し,中立を保つよう努力すること,と言うものでした。さらに,前半にはメキシコの政変に乗じて当時,権力を握っていたカランサ将軍に対米宣戦布告させ,米墨戦争(1846~1848)で失われた米南部のテキサス,ニューメキシコ,アリゾナを取り戻させるとともに,必要な武器および資金の援助をする,というものでした。 

日本に対しても,本方針に同調させ,支持を取りつけよ,と書いてありました。

当時,ドイツ皇帝ヴィルヘルムⅡ世はアメリカへのカードとして日本の脅威を唱え,しきりに日本がハワイ,カリフォルニアへ侵攻を企んでいると宣伝していました。いわゆる黄禍論ですね。ドイツ自身も日本に対し,三国干渉でも知られていますが,中国大陸での権益が危うくなると考え,強い警戒感を抱いていましたが,仮想敵国だったアメリカに対し,謀略を図るために利用しよう,と考えていたようです。

当時,アメリカはメキシコを隣人として脅威に感じており,いつテキサスなどに侵攻してきてもおかしくないし,警戒を怠ってはいけないと考えていました。日清,日露の戦争に勝利し,日本の脅威も感じるようになっていました。 ドイツとしてはメキシコに続いて日本を連合国側から寝返らせて参戦させ,アメリカの背後を突けばアメリカの参戦はなく,欧州での勝利を確実にできると考えたようです。

電報を解読したイギリスは当初,ドイツの暗号を解読していることが露見することを怖れ,アメリカにも教えませんでしたが,ドイツが中立国アメリカを介して講和を目指していることが判明し,ウィルソン米大統領も同調する意向であることが判明するとアメリカにこの電文の内容を通告します。

それにしてもこの当時,膠着状態とは言え,ドイツはフランスの北東部を占領していたので,ドイツの講和条件はベルギーの大半の領土およびフランスのカレーからブーローニュ辺りまでの領土の割譲を要求していました。こんな条件で連合国側は講和に応じるわけがありません。

アメリカも無制限潜水艦戦が始まると1915年のルシタニア号撃沈の悪夢が再現されることとなります。

ツィマーマンの電報の内容が公表されるとアメリカの世論は沸騰し,アメリカの参戦が確定的となります。当然,疲弊しきっていた連合軍の強力な援軍となりますし,これでドイツの敗北は明白となります。 

一方,日本はと言うと,当時,国際社会での地位向上を目指して連合国側についており,第1次世界大戦でも英米のブロックに属していましたから, 対米参戦するはずがなく,米政府の外交官が日本政府と接触すると一笑に付された,とのことです。

それにしても,この本はあまりに我々が知らないツィマーマン電報事件の全貌を明らかにするとともに,日本人として読んでびっくり,と言う内容でした。恐ろしいのは,日本人があまり知らないのに,当時のアメリカ人達は大変よく知っている内容であり,その後の太平洋戦争につながるアメリカ人の対日観に大いに影響した事件であると思います。

また,我々にとっても,第1次世界大戦中は日本は正しいブロックに属し,その後,属するブロックを変えた,ということは我々にとっても世界にとっても不幸な事態を迎えることになったのは残念です。タックマンも最後の方で少しこのように記述しています。強くはこう主張していないのは小説家として,また歴史家として,あくまでも事実を以て語らしむ,という方針によるものでしょう。

世界史の授業ではほとんど習わない事件ですが,日本人として知っておかなければいけない事件だと思いました。


nice!(0)  コメント(0) 

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。

Facebook コメント