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Abigail Tucker著 "The lion in the living room" [海外]

2018年9月24日の日記

The lion in the living room1.jpg 米英版です

Abigail Tuckerの "The lion in the living room" を読みました。"猫はこうして地球を征服した: 人の脳からインターネット、生態系まで" として邦訳も出ていますね。新聞の書評欄でも評価高い本です。でも,邦訳より洋書の方が値段が半分だったのでペーパーバックで読みました。

本書はTuckerの処女作らしく,それにしてもよく動物学や歴史学などを勉強して書いてあるなと感心します。

ただ,内容は......,実に恐るべきものです。

もともと,今われわれが買っているイエネコというのは各地域,大陸ごとにバラバラの原種から育ったわけではなく,ただ1種,リビアヤマネコだった,というのが冒頭に示され,驚かされます。しかも,その研究は今世紀に入ってからで,オックスフォード大の1人の博士課程の学生であったCarlos Driscollが成し遂げたもので,ペルシャ猫からマンハッタンの野良猫,ニュージーランドの森に住む猫に至るまで,Felis Sylvestrisという猫が原種だそうです。トルコやイラク,イスラエルに住んでいるリビアヤマネコの近種のようです。

それじゃ,日本の三毛猫はどうなんだよ,と言う気もするのですが,その辺は書いていません。

いずれにせよ,これほどの広範囲に住み着いた能力は驚くべきもので,どのような環境にも順応し,餌を確保して生存する能力が高いことに驚かされます。

猫がありとあらゆる在来生物を食い散らかし,絶滅の危機に追いやっている実情が次の章から明らかになっていきますが,その生存能力はイヌよりも優れ,特に雌猫の育児能力は極めて高く,イヌよりも優れているため,駆逐するのはきわめて難しいことが明らかにされていきます。そういえば,わが国ではもう,野良犬を見ることはなくなりましたが,狂犬病の関係で駆除されているとは言っても,もともとイヌの母親の育児能力はそれほど高くなく,子供が育つ確率は猫より劣るそうです。世界中で野良猫が大繁殖していることから見てもわかるとおり,猫の繁殖能力の高さには驚かされます。

また,これらのイエネコがありとあらゆる在来動物を食っていることは恐るべきことで,北米のホシバナモグラ(star-nosed mole)やアメリカグンカンドリ(magnificent frigate bird),ニュージーランドの夜行性のオウムである,フクロオウム(Kakapo)やキリギリス(Katydid)やタランチュラ,sawfly larvaという蛾などの虫,もはや生息数は1,100頭以下とされる豪州に住むワラビーの一種(Bridled nail-tail wallaby)をも食っているらしいです。この調査は十分餌を食べさせたイエネコに対して行われたもので,うちの子は外で食べてません! なんて主張は通らないようです。

豪州では特に深刻で,ほ乳類の絶滅危惧種138種のうち,92種の絶滅に加担していると認定されていますし,アメリカでは14億から37億もの鳥を食べていると報告がなされています。特に,フロリダでは在来の野ねずみであるwoodratの食害が深刻で,条例で猫を屋外に出すことは禁止されていますし,屋外で見かけた猫は容赦なく駆除される,と言う対策が取られているにもかかわらず,もはや絶滅は時間の問題のようです。

また,その次は恐るべき寄生虫の媒介者としての姿であり,特に猫の内臓の中でしか増殖しないトキソプラズマは猫が媒介しているようで,すでに人類の1/3は寄生しているらしく,しかもこの寄生虫の恐ろしいことは人食いアメーバ同様,人が持っている血液脳関門をくぐり抜けて脳に寄生するらしく,頭蓋骨の裏側に住み着くようです.......。

従来からトキソプラズマは妊婦が感染すると危険で,特に,最近では統合失調症の原因ではないかと疑われています。

トキソプラズマ症は1938年,ニューヨークの病院で,異常な痙攣を起こした新生児が脳に障害を持っていたことから発見されました。病原菌はなかなか見つかりませんでしたが,生肉が感染源であろう,と言うことは推定できていて,ようやく1965年になってパリのサナトリウムでラムチョップを食べている患者に感染者が多い,と言うことから感染源が判明します。結核患者に生肉ダイエットを実施していたようです。どうもブタが発生源らしく,調べてみるとブタの餌を十分に加熱せずに食べさせており,そこに猫の糞尿が混じっていて感染した,ということから原因が判明します。

今でもトキソプラズマ症は国別の罹患率の差が大きく,北米では10~40%であるのに対し,南欧や南米では高く,国によっては80%にも達するそうです。一方,低いのは韓国らしく,7%以下のようです。日本はわかりません。ともかく,対策としては,ブタや羊の肉を生で食べるのは避けた方がよいようです。


と言う次第で,本当にイエネコがきわめて大きな問題であることがよくわかります。今,空前の猫ブームだそうで,TVにもネットにもかわいい猫の映像があふれていますが,かわい~~!! だけでは済まされないどころか,彼らの裏の恐ろしい顔にも注目しなければならない,と感じました。少なくとも,家で猫を飼う人は外に出しちゃいけないし,避妊手術を義務づける必要があると感じます。

      ☆          ☆          ☆

さて,邦題は▲の通りですが,表紙も日本版はいただけませんね。全然かわいくないし,タイトルも "リビングに住み着いたライオン" でいいのではないでしょうか。

驚いたことにAmazonではドイツ語版も売られていますが,これ,表紙は米英版とそっくりなんですが,よく見ると猫が違う! 種類も違うようです。それに,なんで英語はLionなのに,ドイツ語版はTigerなの? 

Der Tiger in der Guten Stube.jpg ドイツ版


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