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ロバート・ハリス “ファーザーランド” [海外]

2019年3月29日の日記

fatherland2.jpg げ~~っ!!

ナチス・ドイツ帝国‥‥‥1964年。

そう,この本はナチスが第2次世界大戦に勝利した後の世界が舞台です。

1942年,ドイツ国防軍はモスクワとバクー油田の間の補給線を破壊することに成功し,スターリン自慢の大戦車軍団が油切れであっさりと動かなくなって独ソ戦に勝利し,イギリスも1944年,Uボートによる通商破壊戦に屈服してチャーチルとジョージ6世はカナダに亡命します。アメリカは1946年,ナチスが発射したV3ミサイルによる核攻撃の脅しに屈して講和して戦争が終結します。

実際,これらはあり得なかった話ではないし,iruchanも最近見た,映画 "ウィンストン・チャーチル ヒトラーから世界を救った男" にも,ドイツのイギリス上陸作戦が間近であり,ジョージ6世がカナダに亡命することが想定されていたことが描かれていましたが,本当にそうなっていたかもしれません。余談ですけどこの映画,特殊メイクでアカデミー・メイクアップ&ヘアスタイリスト賞を取りましたけど,チャーチル役のゲイリー・オールドマンは大して似てなくて,チェンバレンのロナルド・ピックアップの方がそっくりでしたね。劇場で,チェンバレンがあまりに似ているのでiruchanは吹き出しちゃいました.....。

小説ではエリザベス王女が亡命し,となっていますが,時代的には父親のジョージ6世ですね。講和? 後は例のエドワード8世が復位し,傀儡となっているようです。実際,彼は離婚歴のあるシンプソン夫人と結婚するために退位していることでも有名ですが,親ナチであったことでも知られていますね。そもそも英王室は第1次世界大戦まではハノーヴァー朝と名乗っていて,ハノーヴァー選帝侯だったジョージ1世が始祖ですから,ドイツ人が先祖です。さすがに敵国の王朝の名前じゃまずい,ということでウィンザー朝と改称しているわけです。エドワード8世も祖父(ヴィクトリア女王の夫君)のアルバート公がドイツ人です。

V2号ロケットの後,A4ロケットまで計画されていたのですが,北米に届く大陸間弾道ミサイルはドイツが開発していたかもしれません。V2号も本当はA2号だったのに,ヒトラーが悪夢を見て名前を変更した,というのは宇宙マニアなら知っていますね。

核兵器についても,戦争の早期勝利を確信し,大戦終結に間に合わないと考えたナチスが開発を断念したので開発が間に合わなかったようなのですが,この前読んだ,Michael Dobbs著 "Six months in 1945" によれば,ベルリン近郊のアウアー社の工場では濃縮ウランが製造され,1000tを超す量に達していて,ソ連による占領予定区域にあったことから米英が徹底的に空爆するのですが,残った濃縮ウランをソ連軍が接収し,ソ連の原爆第1号に使用された状況からも,ナチス・ドイツが原爆を開発したのは時間の問題だったように思います。

残念ながら(?),日本については歴史通りで,広島,長崎に原爆を落とされて降伏した,と描かれています。アジアはどうなった,と思っても何にも書いていません。

こうしてナチス・ドイツは第2次世界大戦に勝利し,東はウラル山脈から西はライン川まで有する大帝国となり,欧州12カ国はドイツを盟主とするヨーロッパ連合(!)を形成しています。決して歌われないドイツ国歌の3番にあるように,マース川(仏東部~オランダ)からメーメル(リトアニア)まで,どころか,はるか東方までドイツ領となって,より大領土となっているわけです。ちなみにドイツ国歌ではVaterland(父なる国)と表現されているのですが,本小説のタイトルはそこから選ばれているのだと思いますが,邦訳は "ファータ-・ラント" の方がわかりやすかったのではないか,と思います。 

英,仏などはドイツの同盟国となり,ドイツは世界に冠たる超大国となってアメリカと対峙し,戦後の冷戦はアメリカとドイツという2大超大国間の争いとなっています。ただ,東部戦線だけはアメリカの支援を受けたソヴィエトのゲリラ戦が続き,ドイツ国内の不満分子が徴兵されている状況です。ドイツ社会は国家社会主義による独裁体制が確立し,ゲシュタポによる思想統制が国家の隅々まで行き届いた監視社会となっています。このあたり,ジョージ・オーウェルの "1984年" と同じ状況,という感じです。

しかし,ユダヤ人虐殺については単に東方へ移送された,とだけ発表されていて,国際社会も認知していないと言う状況です。

一方,アメリカは緊張緩和のため,1964年秋に大統領の訪独が決まり,ケネディ大統領(!)とヒトラー総統の会談が決定します....。

物語はヒトラーの75歳(!)の誕生日の6日前,1964年4月14日にはじまります。

ベルリン近郊の湖岸で一人の片脚のない老人の水死体が発見され,ドイツ刑事警察(クリポ)のマルヒという主人公が捜査を始める,と言うところからはじまります。いったい,この老人は誰なのか.....。

もちろん,ベルリンはシュペーアが設計した巨大首都ゲルマニアが実現し,壮大な建築物が所狭しと並んでいる状況です。ちなみにクリポの長官はネーベで,彼は映画 "ワルキューレ" で出てくるヒトラー暗殺未遂事件として有名な7月20日事件に連座したとして絞首刑になっていますが,20年後も存命しています。

この小説はこのマルヒという主人公を中心に描いていて,ヒトラーやヒムラーが具体的に登場するわけではなく,政治小説ではありません。あくまでもこの主人公の成功と破滅や謎解きが物語の中心になっています。

死体の身元が判明し,彼の行動を追求する主人公にゲシュタポの手が伸びてきます。この老人はナチスのユダヤ人大虐殺を決定したヴァンゼー会議(1942.1.20)の出席者の1人でした......。

まあ,ケネディと言っても,物語に登場する予定なのはオヤジのジョセフの方で,息子のジョンじゃありませんけど....。何でこうなのかよくわかりません。大統領への野望があったのは事実だし,それでその夢を息子に託したわけです。また,駐英大使時代にチェンバレンの対独宥和政策を支持し,ルーズヴェルトの怒りを買って失脚したのは事実なんですけど.....。

       ☆          ☆          ☆

iruchanは海外小説は好きですが,残念ながら推理小説は興味の範囲外で,一回り違う姉と違ってアガサ・クリスティもほとんど読んでいないし,読んだ推理小説はクロフツや鮎川哲也くらいしか読んでないのです....orz。これらはiruchanの大好きな鉄道関係の推理小説ですね。

ただ,スパイ小説は結構好きで,フォーサイスは好きで,ほとんど読みました。

この小説もスパイ小説に分類されるでしょうし,iruchanは世界史が好きだし,中でも戦争やナチスは興味の範疇なので本当だったら,とっくに読んでいてもおかしくないのですが.....。

なぜか,まったくこの小説のことは知りませんでした。国内の発売は1992年だし,とうに大人になっていたので知っていてもおかしくないはずなのですけど....。当時,ベストセラーになったようですし,実はこの本はとうに絶版なので,近くの図書館で借りてきたら,実際,貸出票を見ると93年から43回も貸し出しされていて,相当よく読込まれている感じでした。なぜ知らなかったのだろう....。

この本のことはつい最近,新聞で紹介されていたので知りました。すぐにamazonを見たらとうに絶版で,マーケットプレイスで結構な値段がしています。中古市場でも高いらしく,1冊1,000円以上するようです。ということで近くの図書館へ行きましたが,残念ながら閉架所蔵。司書の方にお願いして借りてきました。さすがに今じゃ,読む人はいないようです。貸出票を見ても2003年が最後です。まあ,この頃に貸出機が電子化されて,はんこで記録しなくなっただけのこと,と言う気もしますが,おそらくここ10年ほどは貸出記録がなく,それで閉架所蔵になったのだと思います。

ただ,今読んでも抜群におもしろい小説です。古本屋さんで見つけたら買っておいて損はない,と思います。ペーパーバックで読もうかと思ったら,amazonではkindle版しか表示されないし,海外でも絶版なのか,と思いましたが,Barns & Nobleではペーパーバックが15ドルです。古本のAbe Booksでは送料込みで5ドルほどなので買ってもよいかと思いました。

fatherland-s.jpg ファーザーランド・文春文庫


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