SSブログ

宮脇俊三の作品を読む [文庫]

2019年9月8日の日記

このところ,宮脇俊三を読んでいます。きっかけはラジオ。

NHKラジオ第2放送で,5月から,「宮脇俊三の紀行文学を読む」と題して,作家の小牟田哲彦氏が解説をし,朗読と組み合わせて宮脇俊三の作品を紹介しています。さすがに解説付で物語を読むと非常にわかりやすく,またはまってしまいました。

ラジオが大好きなiruchanは自作のトランジスタラジオで聞いています,と書きたいのですが,何せ木曜の朝10時,という放送時間じゃ,聞いていられないのでradikoolで録音して夜に聞いています。ラジオマニアとしては寂しいですけど,便利な時代になりました。それに,実はこの番組を知ったのは8月頃で,すでに第6回になっていました。しまった,と思ったのですが,NHKの聞き逃しサービスで第2回以降を録音することができました。第1回だけ,聞き逃してしまっています。

宮脇俊三と言えば,"時刻表2万キロ" が有名で,iruchanも学生時分に読みました。"最長片道切符の旅" や "終着駅へ行ってきます" などの国内旅行のほか,"シベリア鉄道9400キロ" や "中国火車旅行" など,海外にも脚を伸ばした作品がありますね。

ただ,デビュー作の "時刻表2万キロ" は1970年代半ばの話で,鉄道マニアのiruchanですら乗ったことのない列車が多く,iruchanが読んだときは,すでにもう,時代は変わっているよな,という印象がありました。もはや,日本に国鉄があった,と言うことを記憶しているひと自体,少なくなっている今ではなおさらでしょう。

亡くなったのが2003年と言うこともありますが,作家は死ぬと急速に忘れられていくこともあり,かつては50冊近くあった宮脇俊三の文庫本も,amazonを見ると現行のものは 新潮社の "最長片道切符の旅" のほかは河出文庫の5冊を残すばかりとなって,角川文庫や文春文庫のシリーズは品切れ(出版社は決して絶版とは言いませんけど)となっています。前回読んだ,"時刻表昭和史" (角川文庫)は現役のようですが,おそらく初回印刷した残りでしょう。まあ,宮脇俊三の本としては新しく,2012年に出ているので,まだ在庫がある,と言うことなのでしょう。河出文庫は長らく文庫を出していなかったのに,復活後は各社の文庫作品で絶版になったものを版権を買って再度,出版する,と言う手法でシリーズを充実させているので,これらの作品集もそう言う類いかと思ったらそうでもなく,"時刻表2万キロ" は河出書房新社から単行本と文庫本が出たあと,角川文庫で出版され,再び古巣から河出文庫として出ている,と言う状況のようです。

その昔,宮脇俊三の文庫本はずいぶんと読んだ,と言う記憶があるのですが,改めて実家の本棚や段ボール箱を開けてみると7冊が出てきただけで,なぜか,"最長片道切符の旅" がありませんでした。読んだ記憶があるのですが,どこかにしまって忘れてしまったようです。現在,捜索中です。

宮脇俊三所蔵文庫本.jpg すべて初版本でした.....。

と言う次第で,改めて宮脇俊三を読もうかと近くの図書館へ行きました。

さすがに,かつては50冊近くあったせいか,彼の文庫も10冊以上,在架していました。

早速,"台湾鉄路千公里" を読み始めます。宮脇作品の海外編は "シベリア鉄道9400キロ" 以外は読んだことがありません。

やはりおもしろいですね。それに,知らないことばかり。台湾って,一周する線路は早くできていた,と思っていたら,東岸南部の南廻線が開通してなくて,1992年になってようやく一周できるようになった,とか,その手前の台東線はナローだったなんて,知りませんでした。驚くことにナローの寝台列車まで運転されていたなんて.....。この本を読むまでまったく知りませんでした。762mmゲージの寝台車ってどんなのだったのだろう.....。

そのせいか,この本は古書価も高いのですね~~。amazonでは4,200円というような値段がマーケットプレイスででいます。まあ,こんな値段で誰が買うのか,という気がしますけど,実際の古書価は店によっては1,000円くらいはするようです。

驚いたことに,当時の台湾の性風俗についても.....。

よく,80年代くらいまで,「韓国へ行ってきた」,なんて言うと,「手,洗ったか?」なんて聞かれて,すなわち買春してきたと思われました(実際,iruchanも見聞した話)。台湾を旅行する日本人も同じだったようで,宮脇俊三も場末のホテルに泊まる度に「オンナノコ,イルヨ」なんて話しかけられる話ばかり出てきます。

読んでいる方も恥ずかしいけど,当時の日本人旅行者ってこういう人が多かったんでしょうね......。

しかし,最終章で書かれているのですが,台湾の鉄道を見に来たのに,思い出すのは出会った人の顔ばかり.....というくだりは印象的。さすがは紀行作家の面目躍如で,感動的な名作と思いました。

また,"中国火車旅行" もはじめて読みました。日中国交正常化まもなくの頃の話で,今の国家資本主義?(何なんでしょうね,この言葉。国家社会主義じゃないの,って思ったらそれはナチスのことなのでこういうしかないんでしょう) に移行する前の社会主義中国の現状がよくわかります。まだ純粋な? 社会主義の時代の中国の鉄道事情はもはやこの本でないと読めないと思います。

      ☆          ☆           ☆

さて,話は変わりますが,久しぶりに宮脇俊三を読もうかと本屋さんに行ってみると日曜だというのに,ガラガラ。

iruchanの住んでいる町は大学もあったりして,それなりに教養レベルの高い町なんですが,その町でも大きな本屋さんは2軒あったのに,1軒は数年前に廃業し,今は老舗の大きな本屋さんが1軒あるだけ,と言う状況になってしまいました。そのお店でも,また,日曜でも,この状況ですから,全国の地方の本屋さんは大変だと思います。

何より,原因はインターネットやスマホとされていて,誰も本を読まなくなった,というのが原因とされています。また,本の販売自体,amazonで買う方が便利で早い,というのも原因だと言われています。

確かに,まったくその通り,と言う気もしますが,でも,本当にそうなのか,というと,出版不況で町の本屋さんがどんどん閉まっている,という状況は日本だけの現象らしく,ネットのせいばかりではないらしいです。それに,スマホの普及はせいぜいここ10年ほどのことで,出版不況はそれこそ21世紀になった頃からなので時期もおかしいです。

やはり,出版業界そのものに原因がありそうです。

何より本屋さんが閉店するようになったのは特に雑誌が売れないからだそうです。もちろん,これはネットの普及が原因でしょう。雑誌のような内容ならネットで十分,というのはiruchanもそう思います。

雑誌が売れないから,どんどん目新しい雑誌を創刊するわけですが,読者は減っているし,本屋さんは売るスペースは限られるので,必ずしも全部が並ぶわけではないし,やはり売れない。とするとまた新しい雑誌を出す,という悪循環に陥っているのはすでに指摘されています。

それに,そもそもどれも写真ばかりのビジュアルな雑誌ばかりで,肝心の内容がない,というのが今の雑誌の姿ではないでしょうか。iruchanの好きな鉄道雑誌だって,老舗の3誌以外はどれも買う価値のないものだと思います。ネットを見る方が貴重な写真も見られていいよな,と思うような中身です。

かつては,日曜の本屋さんの雑誌コーナーなんて割り込むのが難しいくらい混んでいて,立ち読みすることはおろか,買いたい雑誌を引っ張り出すのにも苦労するくらいだったのに,先日の本屋さんでは日曜でもガラガラで楽に立ち読みできました。といって,何も買わずに出てきちゃったのですが.....欲しい本がない,というのもまた,大きな問題だと思います。

先のラジオ番組の第8回で,小牟田氏は宮脇俊三が最後までこだわったのは,写真を載せない,と言うことだったと解説していました。

宮脇俊三は,"時刻表2万キロ" 以後,読者から,なぜ写真を載せない,という苦情をたくさん受けたようですが,最後まで写真を載せないということにこだわったようです。

なぜ,写真を載せないのか.....あくまでも宮脇俊三は自身の作品を文学作品として捉えていて,文学であるからには文章で勝負し,読者に伝えないといけないと感じていたようです。

また,宮脇俊三はラジオでも聞きましたが,常に推敲を重ね,初出の雑誌と文庫本を比較すると結構異なる部分があるらしく,文庫の出版に際しても最後の最後まで推敲を重ねたようです。最後まで,文章を磨くことに注力したようです。

確かに,写真があれば一目瞭然なのに,という記事が宮脇俊三の作品にもあります。ネットや,最近の雑誌は全部こうです。

しかし,テキストの内容はどうかというと.......あまりにもお粗末なものが少なくないのではないでしょうか。こんなのなら素人がネットに書いたブログの方がよい,と言う雑誌があまりにも多いと思います。長く編集者を務めた宮脇俊三が今の出版業界を見たらどう思うでしょうか.....。

      ☆          ☆           ☆

久しぶりに宮脇俊三の本を読んで思うのは,やはり文章が素晴らしい,と言うこと。写真がなくても情景が浮かんでくるし,なによりテキストのみの情報なので集中して読むので頭に刻みつけられる,と感じます。写真ばかりの雑誌は,中身がまったく頭に入りません。どうも今の出版不況というのはこういう出版物ばかり出すことにあるのではないか,という気がします。

      ☆          ☆           ☆

2019年9月10日追記

ちょっと探していた,"台湾鉄路千公里" を入手しました。3冊まとめてオークションにでていて,安く落札できました。1冊,200円ほどでした。

さすがにamazonの値段は異常だと思いますが,古書店で買うと1,000円くらいするようです。内容が稀少なのでしょうね。

初版本で,角川の宮脇俊三のシリーズは最初,背表紙が白で出て,iruchanの "時刻表2万キロ" もそうなんですが,この数年後には薄青に変わってしまったようで,iruchanも最近気がついてびっくりしたのですが,これは白でした。

中身も焼けてなくて,とてもきれいな状態でした。探していたのでうれしいです。

台湾鉄路千公里.jpg ようやく入手しました.....[晴れ]


nice!(1)  コメント(0)