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Isabella L. Bird 著 "Unbeaten Tracks in Japan" [海外]

2016年4月15日の日記

ungeaten tracks in japan.jpg

とうとう,イザベラ・バードの"Unbeaten Tracks in Japan" を読み終えました。"日本奥地紀行" の邦題がついている本ですね。昔から名著として知られています。いつか読もうと思っていました。

1878年,スコットランドからやってきた一女性が東京から北海道まで渡ってアイヌの人たちに会いに行ったときの旅行記です。遥か極東の未知の遠い国を訪れて1,000km以上に及ぶ大旅行を計画して実行したという気力に驚かされます。

彼女の名前はイザベラ・ルーシー・バード,当時46歳です。まだ明治維新から10年しか経っていないし,下田と函館が開港され,開国してからでもようやく四半世紀という時期です。まだ日本のことは海外ではほとんど知られていないし,情報もほとんど入らない状況だったと思いますが,本当にそんな状況下でよく旅行したものだと思います。

この本が名著とされるのはその当時の日本の風俗・習慣や当時の状況を克明に記録していることにあります。遥か極東の異国の風俗や風景をありのままに伝え,海外の読者に与える印象は当時も今もすごいものがあるでしょう。おそらく,日本に興味を持った外国人が必ず読む本だと思います。

また,我々日本人が読んでも知らないことばかり,と言うのにも驚かされます。そもそも交通手段は? 宿泊はどうするの? 食事は? と言った具合で,当時の外国人がどのように日本国内を移動したか,というのも想像はできてもどんなものだったかは読んでみないとわかりません。まあ,徒歩と駕籠かとか,食事はご飯と野菜の普通の日本食だろうし,と言うことは想像できるのですが,開国からそんなに経っていないのに,大きな町ではミルクや卵が手に入る,と言うことがわかります。当時の外国人がどんな風に感じたか,というのはとても興味があります。

そういった興味ばかりでなく,明治維新になったばかりと言うことは江戸時代の風習や文化が根強く残っている時代ですし,当時の旅行といったものはどんなものか,とか,そもそも当時の日本人ってどういう風に暮らしていたのか,どんな格好をしていたのかという興味も出てきます。 まだちょんまげを結っているのが多い時代だし,女も日本髪型ですね。ただ,TVの時代劇で見るようなきれいなもんじゃなく,日本人はほとんど何らかの皮膚病を患っていて髪の毛のないところは汚いと書いています。

街道の宿屋に泊まって夜中に目が覚めてみるとどこでも障子にたくさんの穴が開き,たくさんの目が見つめていたとか,とにかくクサい,ノミだらけの部屋,ゾッとするような変な味のするスープ(味噌汁!)とか,夜はどんちゃん騒ぎで寝てられないとか,東京はそれなりの格好をした人ばかりなのに田舎へ行くと男も女も裸だとか,正直言って穴があったら入りたいくらいのものです。でも,当時の日本なんてそんなものでしょう。とにかく臭いとノミや蚊に悩まされ続けた旅行記が延々と続きます。そもそも女も裸だったのか,という気がしますけど.....。私の英語力が悪いのか,全裸としか読めません。男はふんどし一丁,女は腰巻きだけ,という状態だったのだ,と思いますが。

まあ,正直なところ,当時の日本人の野蛮な(そう彼女は書いていませんけど)姿や習慣,暮らしぶりにはあきれますが,当時のありのままの現実の日本の姿でしょう。 

また,移動手段は都市部では人力車ですが,そのほかのところは徒歩か馬にまたがって,という感じのようです。鉄道は新橋~横浜間だけです。旅の始まりは横浜で,そこから東京まで汽車に乗っています。駕籠は使っていません。 当時の日本の物流についても舟か,と思っていましたがよく考えてみると内陸部は荷駄しかないわけです。こんなことすら知りませんでした。

それに,街道の悪さにも閉口しています。急勾配の細い道やぬかるみと大雨には悩まされ続けます。新潟と福島を結ぶ越後街道にある車峠越えの際, "この国はもっと道路の整備に投資し,武器や西欧の虚栄を買わないようにしてほしい" と書いています。彼女の願いは叶いませんでした.....。 

それでもこの本を日本人である私が読み通せたのも,決して彼女はバカにしているわけではなく,淡々とありのままに実際の状況を綴っているだけだし,その反対に日本人に対する温かな目が感じられるからです。日本人の悪いところばかりでなく,いいところもちゃんと見て記録してくれています。腹痛を訴え,人力車を引っ張ることができなくなった車夫を気の毒に思い,心付けを渡そうとしたら決して受け取らなかったとか,荷駄をひく馬子たちの誠実な仕事ぶりも褒めています。また,景色についても新潟県津川からの阿賀野川下りの情景など,今まで見たことがないほど美しい風景,ということを書いています。

まだ江戸と言ってよいくらい江戸時代の習慣や生活形態を色濃く残した当時の東京の状況にも驚きますが,そこから日光,会津若松を経て新潟に出て,村上から再び羽州街道経由で青森へ行って北海道に渡り,室蘭を経てアイヌの人たちが住む平取まで旅行をします。当時のアイヌの人たちの風習や生活についても克明に記録しています。また,当時の日本の役人のアイヌの人たちに対する侮蔑的な態度を告発し,厳しく非難しています。 

異文化に接する際の姿勢や敬意の念は現在もわれわれ世界とは縁を切れない状況となっている現代人にも通じる教訓だと思います。

残念ながら英語はかなり難しいです。 さすがに150年前の英語なので現在では使わないような古い単語が出てきますし,花や魚の学名がしょっちゅう出てくるので辞書を引くのにも苦労します。yadoyaとか,kurumaなんて日本語もよく出てきます。せめてイタリックになっているとわかりやすいんですが,daimiyo(大名)とか,saibancho(裁判長)となどとあるとびっくりしてしまいます。実は読むのに1年以上かかってしまいました。電車通勤しなくなって電車の中で読めなくなった,と言うのもありますが,それでも1年かかっても読む価値はあるし,また,1年も興味を持続して読み続けることができたことからもわかるとおり,本当に興味深い内容でした。

海外でもまだたくさん出版されています。とうに著作権切れなのか,いろんな出版社が出していて,Amazonで一番安いペーパーバックを買いました。kindleだと無料のようです。でもまだ電子版に踏み切れません。やはり本じゃなくちゃ,と思います。でも,この表紙は何? 怪しげな出版社のようで,明記してありません。表紙はちょっと電車の中で読むのがはばかられる感じでしたが,原著の挿絵(彼女が大部分を描いている)をきちんと再現していたり,中身はとてもよいものでした。

なお,"日本奥地紀行" はいくつかの版があり,後期のものは関西方面への旅行記が載っているそうです。これ,知りませんでした。私が読んだのは関西方面の部分はありませんでした。 


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